医療現場でAI文字起こしをカルテ作成に活用——medimo・SpeechERの実力と使い方
カルテ入力に使っている時間、正確に計ったことがあるだろうか。外来医師の場合、1日の業務時間のうち30〜40%が電子カルテ入力に消えているという調査がある。1日8時間勤務なら、2〜3時間がキーボードとにらめっこだ。患者を診ている時間より、記録している時間の方が長くなることさえある。
AIを使えばカルテ記録時間を最大70%削減できる——そういう触れ込みのツールがここ数年で一気に増えた。ただ、全部が同じ仕組みではない。医療専用に設計されたものと、汎用の文字起こしツールを医療現場に持ち込んだものでは、使い勝手がまるで違う。
この記事の結論(先に読みたい人向け)
電子カルテとの連携が必要ならmedimo(月額19,800円〜)、スマホ1台で始めたい現場主義ならSpeechER、まず無料で試したいならNotta。どのツールを選んでも、専門用語辞書の設定を最初にやらないと精度が出ない。これが最大の落とし穴。
カルテ入力が医師を疲弊させる、構造的な話
電子カルテの普及率は2023年時点で一般病院全体の57.2%、400床以上の大病院では91.2%に達している(厚生労働省調査)。電子化は進んだ。ところが、入力作業の負担はむしろ増えているという声が多い。
なぜか。紙カルテの時代は「後で読めればいい」という割り切りが効いた。電子化すると、構造化されたデータとして入力することが求められる。病名はICD-10コードで選択、処方は薬剤マスタから検索、検査は項目ごとにチェック——操作ステップが増える分、入力負担は上がる。診察の質を上げるために電子化したはずが、事務作業を増やす結果になっているのは皮肉だと思う。
AIカルテ作成ツールが解決しようとしているのは、この「構造化入力の手間」だ。音声で話した内容を、AIがSOAP形式(主訴・客観的所見・評価・計画)に自動整理して電子カルテの各フィールドに流し込む。理想としてはそういう仕組みだが、実際のところは製品によってできることがかなり違う。
medimo——会話から5秒、SOAPまで自動整形する専用サービス
medimoはその名の通り医療特化のAI文字起こしサービスで、患者との会話から5秒でカルテ草稿を生成するという速度を売りにしている。独自の医療用AIを開発しており、疾患名や薬剤名などの専門用語を文脈から正確に認識する。
特徴的なのはSOAPフォーマットへの自動整形機能だ。会話を単純に文字起こしするだけでなく、「主訴はどれか」「処方計画は何か」をAIが解釈して構造化してくれる。フォーマットはカスタマイズ可能で、各クリニックのカルテスタイルに合わせた調整もできる。さらに、会話から紹介状を自動生成する機能もある。
コストはそれなりにかかる。初期費用150,000円、初期連携費66,000円、月額19,800円(すべて税込)。クリニック単位で導入するなら、最初の1年間で約47万円の投資になる計算だ。電子カルテ「モバカル」との連携実績もあり、既存システムとの統合を重視するなら有力な選択肢になる。
medimo の費用感(2026年4月時点)
初期費用 150,000円 + 連携費 66,000円 / 月額 19,800円(税込)。カルテ連携込みで会話→SOAP整形まで一気通貫。ただし中小クリニックには初期投資がやや重い。
SpeechER——グッドデザイン賞受賞、スマホだけで動く現場型アプリ
TXP Medicalが開発したSpeechERは、2025年のグッドデザイン賞を受賞した。医療ツールがデザイン賞を取るのは珍しい。受賞理由を見ると「臨床現場での操作性と医療AI活用の社会的意義」が評価されたとある。
使い方はシンプルで、スマートフォンに向かって話すだけ。録音された音声をAIが解析し、電子カルテへの記載に適した形式に自動変換する。独自開発の医療辞書を持っており、専門用語や医療略語を文脈に応じて正確に変換するのが強みだと言われている。
2025年7月には青森県十和田市立中央病院での本格導入が始まった。地域の中核病院での実運用実績があることは、「PoC止まりではない」という証拠としてわかりやすい。カルテ記録時間を最大70%削減できるとされており、導入病院からのフィードバックをもとに継続的に改善されているらしい。
価格は問い合わせ制で公式には公開されていない。medimoと比較検討するなら、両方に見積もりを取って並べるしかない。ここは正直調べきれなかった部分だ。
専門用語辞書の話——見落とすと全部崩れる
AIカルテツールを導入した後、「思ったより精度が出ない」と感じる医師の多くが見落としているのが専門用語辞書の設定だ。これは本当に重要なのに、ツールの説明書では後ろの方にさらっと書いてあることが多い。
たとえば「PCI」は経皮的冠動脈インターベンションだが、文脈なしでは別の略語と混同される可能性がある。「DM」は糖尿病を指すことも、メッセージの略称とも取れる。「BP」は血圧か、それとも別の何かか。医療現場で使われる略語には、一般語として別の意味を持つものが多い。
medimoもSpeechERも、事前に医療辞書をデフォルトで持っているが、各科特有の用語や施設独自の略称には対応できていないことがある。導入直後に「専門用語登録」の作業を1〜2時間かけてやるかどうかで、その後の認識精度がかなり変わる。面倒なのはわかるが、ここをサボると「AIが間違える」という評価につながりやすい。意外と見落とされている落とし穴だと思う。
カスタム辞書の具体的な活用方法についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ツール導入前に目を通しておくといいと思う。
汎用ツールを医療現場で使うという選択肢
medimo・SpeechERのような医療特化ツールではなく、汎用のAI文字起こしツールを医療現場で活用しているケースも増えている。
特にカルテ入力ではなく「カンファレンスや症例検討会の記録」が主な用途なら、汎用ツールで十分なことが多い。複数の医師・看護師が発言する場面では、話者分離機能があると後から「誰が何を言ったか」が追いやすい。
汎用ツールで医療現場での活用が増えているのがNottaだ。医療専用ではないが、以下の点で現場のニーズに合いやすいという声がある。
- 文字起こし時間が無制限——長時間の診療やカンファレンスにも対応
- 1契約で最大10名まで利用可能——複数の診察室や栄養指導室で使い回せる
- 3〜4名規模の話者を高精度で分離し、誰が何を発言したか記録できる
- カルテテンプレートに合わせた自動要約が生成できる
- 無料プランがあり、まず試してから導入判断ができる
医療特化ツールと比べて不利になるのは、デフォルト状態での専門用語認識精度だ。ただ、カスタム辞書をしっかり整備すれば、汎用ツールでもかなりの精度が出るというのは、実際に使っている医師からの報告でよく目にする。
一方、患者情報を含む音声データをクラウドに送ることへの対応方針は施設ごとに異なる。セキュリティ要件の確認は必須で、AI文字起こしのデータ漏洩リスクと対策も参照してほしい。
どれを選ぶか——3つの条件で絞る
ツールの選択は、次の3点で整理するとシンプルになる。
| 条件 | 推奨ツール | 理由 |
|---|---|---|
| 既存の電子カルテと直接連携したい | medimo | 連携実績あり、SOAP整形まで対応、月額19,800円 |
| スマホ1台で現場からすぐ使いたい | SpeechER | 現場主義の設計、病院導入実績、グッドデザイン賞 |
| カンファレンス記録・低コストで試したい | Notta等の汎用ツール | 無料プランあり、話者分離、月額数千円〜 |
「とりあえず導入してみる」で月額2万円のツールを入れても、使いこなせなければ意味がない。まず「カルテ連携が本当に必要か」を問い直してほしい。単純に診察の流れを録音してテキスト化したいだけなら、医療特化ツールでなくてもいいケースは多い。
なお、まだ自分が正確に把握できていないのは、各ツールの「導入後サポート体制」の差だ。初期設定支援やカスタム辞書の整備サポートがどこまでついてくるかは、実際に問い合わせてみないとわからない。ここは各社の担当者に直接確認するのが確実だと思う。
同じような記録負担を抱える介護現場での活用事例については、介護記録へのAI文字起こし導入事例が参考になる。医療との共通点・相違点の整理にも使える。
まず試すならNottaが現実的な出発点
医療特化ツールへの本格投資を決める前に、汎用ツールで「AI文字起こし×カルテ作成」のワークフローを試してみる価値はある。Notta(ノッタ)は無料プランでも基本的な文字起こしと要約が使えるため、「そもそも音声入力でカルテを作る運用が自分に合うかどうか」を確かめる最初のステップとして使いやすい。
カスタム辞書を整備して医療用語の認識精度を上げれば、外来の録音→テキスト化→SOAP形式への加工というフローを低コストで回すことができる。medimoやSpeechERへの移行判断は、そこで実際に使い込んでから判断しても遅くない。